蒲郡にある清田の大楠は、国の天然記念物です。これは巨木で、こちら観音寺の大楠はその6分くらいに当りましょうか。数字だけでは全体を比較できませんけれども、幹の目通りの太さは蒲郡の方は13.50メートルで、上佐脇の方は8.55メートルです。また、地上すれすれの根回りは13.24メートルあります。ともかく町内第一の巨樹であることは誰もが知っているところです。
伝説によりますと、白河天皇の承暦年中(1077-)に寺の住僧が植えたものといわれます。およそ九百年前のことです。昭和九年ごろ県から調査にこられた小栗鉄次郎氏がその当時の寺というのは天台宗であったであろうと推定されていました。今の観音寺は慶長元年(1596)に中興されたもので曹洞宗であります。400年ほど前の永禄年中、この楠の幹の中から自然発火を起し、木は半ばもえ上り寺も類焼の厄にあったとのことですが、そのとき幹から火光とともに1匹の白蛇が現われたといわれます。そこで焼跡に白蛇不動明王の祠をたててこれを祭りました。一説に落雷のために幹がさかれ白蛇がでてきたのだともいわれますが、まあまあ落雷の方が真実を語っているように思われます。この祠は、現在は楠のうろの中に安置してあります。
また白蛇は弁天様のお使いということですから、楠の前に宝暦2年(1752)に建てられた宝筐院塔があり、それには施主弁天講と銘ががあって、この塔の施主は、出現した白蛇のために建立したものと思われます。
木を傷つけるとたたりがあるといって誰も手を出しません。このことを小栗氏はそういう信仰があったからこそ、この樹が守られて今日に至ったのだといわれました。昭和34年伊勢湾台風のために多くの枝を折損し3分の1くらいを失いましたが、おいおい回復し、なお、樹勢はさかんであります。
広報みと:❺文化財 昭和54年7月15日号より