御津神社
当社の創立は古く、『文徳実録』によれば、仁寿元年(851)には従五位下が授けられ、「延喜式」には、三河26座の―つに加えられ、朝野の尊崇を受けていました。
祭神は、大国主命とされています。御津湊は、古くから、三河国府と、大和、伊勢の中央とを結ぶ海上交通の要衝で、古くから海人族の根拠地として栄えていました。伝承によれば、当社の祭神は、御紬玉大神・磯宮揖取大神・船津大神などを従えて、伊勢の浜から、船津へお着きになりました。汗野地内の沓脱塚や岩(石)畳神社は、この時の由緒を今に伝えています。
当社には、応永22年(1415)、永享11年(1439)、天文15年(1546)の銘ある棟札や、享徳元年(1452)の梵鐘などが伝わり、三河守護の一色氏、細川氏、豪族の牛久保牧野氏、森下波多野氏などと、御津神社との関係を知ることができます。
当社は、古来御津七郷12ヶ村(広石・森下・茂松・灰野・金割・西方・汗野・大草・赤根・大塚・丹野・山神)の総産土神と崇められ、明治五年に郷社に列せられた時、本殿の右側に、常祭の神としてこれらの氏神を祀りました。同15年には社殿の造営が行われ、県社となりました。境内摂社が2つあります。
【磯宮】古くは磯宮揖取大明神と称し、海上交通を守護する綿津見命を祀り、字神子田(旧かじなわて)に鎮座していました。
【船津神社】船主神社とも称し、祭神はお神の猿田彦命です。字船津から、明治9年に磯宮とともに現在地へ移されました。
境内には、天満社、稲荷社、新宮社、富野御前社、八幡社、御鍬社、秋葉社、八百萬社など8つの末社があります。
また、境外摂社として、旧茂松村に御紬玉神社、境外末社として、泙野村に別宮の岩(石)畳神社、旧森下村に秋葉神社があります。
大般若経(町指定文化財)
御神庫内の経櫃に収められていた大般若経は、完全な巻子本34巻を含めて、約150巻分が保存されています。年代は、永和年間(1375)のものが多く、筆者に宇利庄冨賀寺関連の僧の名が多く見られますが、第600巻の奥書には、応永16年(1409)今橋悟真寺の2世慈智の名前も見られます。
梵鐘(町指定文化財)
享徳元年(1452)細川成之が三河守護であったころ、大願主波多野政家が奉納しました。
成之は当時阿波の守護も兼務しており、波多野氏は三河の代官かと思われます。応仁の乱の頃は、この地方でも、細川、一色、波多野、牧野などが興亡を繰り返していたようです。
鰐口(町指定文化財)
お宮やお寺の拝所の頭上に吊し、綱につけた板切などで叩いて、音を発する祭具です。
願主守政などの寄進による永禄元年(1585)のもの、総氏子中寄進の万治3年(1660)のもの、大恩寺鸞誉上人寄進の延宝2年(1674)の3つがあり、神社の歴史を物語っています。
クスノキ(町指定天然記念物)
正面石段の右手前にある楠の老木は、大きな根元から幾本かの幹が伸び、樹勢旺勢です。
地域の興亡を見守ってきた老木ですから、大切に保護していきたいものです。
【平野・竹本義人碑】金割灰野地内にあった入会山をめぐる争いで、犠牲となった広石の庄屋平野源蔵、組頭竹本庄右衛門両人の碑が、昭和58年に広石公民館完成の記念として境内に建てられました。
【肖像祭と肖像画】宵祭の日に、歴代宮司の肖像画など10本ほどを拝殿に掛けて、肖像祭が行われます。その中には、皇学4大人の肖像や、羽田野敬雄の子孫が賛と肖像を描いた珍しいものもあります。
【皇学四大人の神歌碑】明治11年、羽田野敬雄が中心になって、国学者荷田春満、賀茂真淵、本居宣長、平田篤胤の歌碑を建てました。転換期における地域の情熱が感じられます。
【御津神社道の道標】空池の中に石造の舟があり、矑の部分に2本の石柱があります。これは、安政五年(1858)と同七年に、羽田野敬雄等が中心になり、羽田文庫の執持や補助によって、東大塚と、広石松口に建てられました。
延喜式内参河廿六座の「道しるべ」の中の2本が移されたものです。
【山林分割記念の大鏡】明治14年9月、共有山に関して、円満な話し合いが成立したことを記念して作った大鏡です。直径1.3m重さ253gもあり、宝飯郡長の由緒書きや、羽田野敬雄など関係者の名も見られます。
その他の宝物として、境内から掘り出された土器、湯立釜2口、橘千蔭や賀茂真淵等の書画、渡辺小華の表紙絵になる短冊帳などがあります。
【渡辺錨造翁】幕末から明治にかけ、かつてない激動の中を、広石村を含むこの地域の指導者として、翁の活躍は目覚ましいものがありました。御津神社の社殿を建て、東海道線御油駅を誘致し、小学校を建て、平壌池を掘って地域の灌漑の便に供したりしました。また旧領主柴田家の面倒を見たり、流水文銅鐸などの文化財を保護することにも力を尽くしました。長男が日露戦役で戦死した後も、家業に励み、少しもひるみませんでした。
みと歴史散歩:❷古道に沿って 平成12年2月発行より