善光庵をあとに南大通を南に300m進み歩道橋を渡る。さらに南に進んで飯田線のガード手前を右に入り坂を登ると熊野神社の正面に出る。一歩境内に入ると、ケヤキ・ムク・シイ・クスノキなどの巨木がうっそうと茂り、静かなたたずまいをみせている。
神社の創立について『牛窪密談記』には、「崇神天皇のころ、紀州(和歌山県)熊野権現の分神を、紀州牛間戸の港から船によって運び、長山の地におまつりした」と記されている。この神社は、代々の牧野家の信仰を受け、享禄元(1528)年に牧野民部丞成勝が修復料を寄進したことが、神社に残る古文書から分かる。また、神社の前にある石燈籠は、越後(新潟県)長岡藩主の牧野忠精が寛政8(1796)年に寄進したものであり、その他にも忠精が描いて奉納した「寝牛の額」や「蟠螭の額」なども残されている(見学できません)。
木造狛犬 【県指定有形文化財】(見学できません)
熊野神社は、県指定有形文化財の木造狛犬と神社古記録がある。神社古記録の「御造営書留帳」には、「天文7(1538)戌年 本社建立 両村氏子中 高麗犬壱ツ」と記されており、牛久保村・長山村の氏子が、戌年にちなんで最初から―つだけ作り、この狛犬を奉納したことが分かる。高さ22.8㎝で、ヒノキ材を腹部で継ぎ合わせている。小品ではあるが力強い量感をもっている。
牛久保のナギ 【国指定天然記念物】
線路南の森の中に、ひときは大きくそびえているナギの木がある。幹の回りは3.5m、高さ20mもあり、地上4mのところで、二股に分かれている。ナギは、マキ科に属する暖地性の植物で、本州西部、四国、九州の山中に自生する。この地方でこれほど大きくなるのは珍しいとされ、昭和13(1938)年に、国の天然記念物に指定された。
ナギは雌雄異株で、指定の木は雄株で実をつけない。境内には2本の雌株があり、夏に緑色の実をつけ、秋に熟すると黒紫色に変わり白い粉をつける。葉は、葉脈が平行に走っていて、なかなかちぎれにくいことから、ベンケイナカセの別名がある。古来、ナギの葉をお守り袋に入れたり、嫁入りの鏡に彫刻したりしたのは、夫婦の縁が切れないことを願ったためである。
豊川の歴史散歩:❷豊川の町から牛久保の町へ 平成25年10月発行より